2020年に、1964年以来の東京オリンピックとパラリンピックが開催されます。
第32回目になるオリンピックは33競技あり、障害者の方のパラリンピックは22競技の予定です。
ゴルフはリオに続き正式競技として行われますが、パラリンピックでは種目に入っていません。
ゴルフこそ健常者と障害者がともに楽しめるスポーツなのにと非常に残念です。
今回はPGAシードプロのモーガン・ホフマンが、2017年12月に衝撃のカミングアウトをしたお話を詳しくご紹介しましょう。
彼は障害者になったことを手記にし、それを読んだ世界中の人々が感動しました。
今回の記事が何らかの形で心に残り、あしたの元気の素になれば幸いです。
モーガン・ホフマンに訪れたショッキングな出来事
2017年12月4日、モーガン・ホフマン(Morgan Hoffmann)は自分が難病だという事実を手記で告白しました(画像はFacebookより)。
本当に衝撃的でした。手記のタイトルは「So Damn Lucky」です。
”Damn”はクソ~!という意味で、逆用した「なんという!」という意味です。
自分が現代の医学をもってしても根本治療法がない病気になったというのに、「俺ってなんてラッキーな奴なんだ!」とインパクトの強い文章で手記は始まりました。
その言葉のうらはらな意味はすぐに伝わってきませんでした。
いろいろ調べてみると、彼は予告もなく障害者になったことで、まるで宇宙をさまようようなショックを受けたようです。
手記を読みはじめて、彼の強いメンタルに興味が湧きました。
モーガン・ホフマンをご存知ですか?
さてモーガン・ホフマンのことは、PGAに詳しい方ならすでにご存知かもしれませんね。
1989年8月11日、アメリカはニュージャージー生まれの28歳、プロデビューは2011年でした。
ゴルフの名門オクラホマ州立大学出身で、リッキー・ファウラーとは同級生です。
PGAサイトには身長6ft1in(185.92cm)、体重180lbs(81.64kg)とあります。
まだ未勝利ですが、2016-2017シーズンのフェデックスカップ・ポイントランクは81位(もちろん余裕のシード権内)でした。
トータルドライビングは15位、面白い記録は最長ホールインワンでトップの251ヤード(セーフウェイオープン)を記録しています。
その後ホンダ・クラシックで2位に入るなど、これから伸びると期待されて将来を嘱望されている存在です。
ドクターの口から出た絶望的な言葉
モーガン・ホフマン本人が、体の不調に気づいたのはプロになった直後でした。まったく皮肉なものです。
ホフマンはスポーツ万能タイプ、ゴルフも野球もホッケーも並外れて上手でした。
とにかくトレーニングが趣味というほどの人でしたが、ある時からいくら鍛えても筋力が落ちていくのです。
その日から病名解明の旅が始まりました。
全米の名だたる病院をさまよい、ついにはカナダの有名病院にも足を伸ばし25ヶ所で精密検査しました。
すべてのドクターの言った言葉は「原因も治療法もわからない」と全く共通のものでした。
そして訪れたホフマンのつらい旅の結末は残酷でした。
なんで自分なんだ!と心で叫んだものの…
仕事はプロゴルファーですから、身体は不調でもツアーの転戦は続けました。
最後のチャンスと思いつつ診察を受けたニューヨークの神経科で、あまりにも残酷な告知を受けます。
「検査の結果、あなたが患っている病気は筋ジストロフィーです。残念ながら世界に治療法が見つからない不治の病です。」
ウソだ!なんで自分がならなきゃいけないのか?と思いパニックになったそうです。
これは夢なんだ、悪い冗談できっといつか笑い話になって終わるのかもしれないと思ったと書かれています。
しかし現実は首から下のすべての筋力が徐々に失われていくのです。
今の段階は右胸の筋力が消えかかっていて、やがて歩行も呼吸も、食べものを飲み込むことさえできなくなるかもしれない。
命がすぐになくなる危険とは異なるだけに、症状が悪化していくスピードや広がり方に対する不安はいかばかりか、未経験の自分には恐怖と苦悩の量が推し量れません。
自分は言葉にならないほどラッキーだと思う心
人間の価値は、自分の周囲に波風が立たない無風状態ではなかなか見えてきません。
モーガン・ホフマンに嵐が訪れた時、この若者のメンタルの真実の強さがむき出しになりました。
「こんな病気のせいで今までの僕の人生がすべて否定されるわけじゃない。病気は僕の人生の中の一部にすぎないからね。」
”今までの僕の人生”という言葉には意味があります。
ホフマンは学生時代から後進国の子供たちのために、チャリティ活動を行ってきました。
皮肉なことに、アメリカ国内の難病の子供たちのため地道に続けてきた活動が背景にありました。
「僕はプロになる夢を追いかけきてついに実現させた。病気に苦しみながら強く生きる子供たちから大きなエネルギーをもらってきたからね。」
そこから生まれた言葉が、「たくさんの人と素晴らしい体験を重ねてきた僕の人生は言葉にならないほどラッキーなんだよ!」となったのです。
障害のある方のメンタルは強靭
そもそも、人の健康ってまるまる100%、悪い箇所が一切ない方は珍しいんでしょうね。
身体を使えば年を追うごとにどこかは消耗していきます。
障害をお持ちの方は、ハンデがある分どうしてもメンタル面で強くなり、自然に健常者とのバランスをとって生きていきます。
筆者は足に重度の障害がある、「シーさん」と名乗るゴル友がいます。
左足はほとんど自分の意志で動かすことはできません。
ただ、左足を踏ん張る力はあるようです。
彼はハンデ8、ドライバーは250ヤード近い飛距離を持っています。自分のことをハンディキャッパーだなんて思っていないようです。
筆者は彼に負けるたびに思うことは、彼のメンタルの強さです。
あの桁違いに優しくて広い心、どうしてもその差は埋めることができません。
健常者が障害者を手助けすることはあっても、同情する必要はありません。むしろ、障害者の方が筆者のような未熟な健常者を、”かわいそう”と思っているかもしれませんね。
ゴルフは健常者と障害者が同等に楽しめるスポーツ
そんな意味で冒頭に、パラリンピックになぜゴルフがないのかの不満を述べたのです。
オリンピック関係者に、ホフマンの本当の心意気が伝わればいいなぁと考えたりします。
ゴルフは健常者だけのものではありません。
実際に日本にはDGA(Disabled Golf Association Japan=日本障害者ゴルフ協会)があります。
障害者ゴルファーと会の趣旨に賛同し、参加している健常者が全国に千名近くいます。
この会は肢体不自由な方、脳などの機能障害がある方や車いすの方も、一様にゴルフを楽しめるようサポートしています。
前述の筆者のゴル友ではありませんが、現在は全くの初心者からなんと70代でスイスイ回ってくるシングルレベルまで様々だそうです。
モーガン・ホフマンに学ぶことのまとめ
日常の些細なことにあまり反応しない健常者から見ると、小さな幸せを心で感じ取る感性は障害のある方のほうがはるかに敏感かもしれません。
ゴルフには感情の起伏が激しいながら、共通の楽しみを共有する機会があります。
全国的にも都道府県主催でも、障害の等級に合わせた大きな競技会があり、一部修正されたゴルフルールを決めて、毎年多くの方がそのお手並みを競っています。
2017年には「第21回・日本障害者オープンゴルフ選手権」が開催されました。
モーガン・ホフマンも一人のプロゴルファーです。
彼をリスペクトする理由は、彼がいちゴルファーである前にひとりの立派な人間であるからです。
一見派手に見えるプロゴルフの世界も、スーパーショットや輝かしい勝利をファンに見せるだけではなく、選手もギャラリーも一人一人が素晴らしい生き方を示そうとする姿に感動する、瞬間瞬間の積み重ねを忘れないようにしたいものです。
それが本当のゴルフの神髄に繋がることだからです。