野球には野球用語があります。
ワンバンは”One bound”、ドンマイは”Don't mind"などと耳から変えられた古い慣用句です。
またアンダースローとかキャッチボール、ゲッツー、クリーンナップ、デッドボール、ナイター、フルベース、チェンジはすべて和製英語ですが普通使われる野球用語になっています。
外国から流入して国内に定着したスポーツは、どれも似たような用語が生きています。
ゴルフも日本に輸入されて100年も経つわけですから、正しい英語も和製も含めいろいろな用語が入り乱れています。
外国人選手がプレー中に口にする単語やフレーズの中には、オシャレで「センス」を感じるものが散りばめられています。
左右にボールが散らかるときは前回ご紹介した「アーミーゴルフ」も楽しいのですが、「スプレー(打法)!」なども面白いですね。
1mのバーディパット、緊張して膝がガクガクしたら「ニーノッカーになっちゃた」とか、バンカーから出して見事ワンパットの時は、一斉に「ナイスサンディー!」と称賛してあげたほうがオジサンぽい「砂一(すないち)」よりはカッコいいでしょう。
「ナイスサンディー」は途中でバンカーに入れてもしっかりパーを奪取した時でも使います。
今回もそんなゴルフを盛り上げてますます楽しくなるオシャレな用語のご紹介です。
「(ナイスパット)アリス!」
気の置けない仲間なら、時には冷やかしも雰囲気が和んで楽しいものです。
同伴者のパットは4~5m足らず、なのに全然打ちきれなくて半分も距離を残したときなど、日本語では「お嬢さまね~」「男の子じゃないよ~」などとからかったりしますが、こちらもよく似ています。
アリスはアメリカでは一番ありふれた女の子の名前です。
相手と勝負をしている時は「ナイス」なんて皮肉られるとショックが倍になり、結構”鋭い一言”になります。
「Be up!」などと呟くのもセンスがいいですね。
トム・モリスの名言に”Never up, Never in”があります。
そこからスコットランドには同じ意味で、昔から「Be up!」が慣用句になっています。
「オーシャンライナー」
20m以上ある長~いパッティングのときは、ライン読みで仲間を待たせるときの間をとって「オーシャンライナー(Ocean liner)だね~」とかジョークをひとつ入れましょう。
オーシャンライナーは日本でいえばつくばエキスプレスや湘南ライナーのような、路線の長い快速電車です。
長いからしっかり打ってスピードを出さないとね~ということになります。
「ミッキーマウス・コース」
アメリカ人がミッキーマウス・コースというケースはふたつあります。
300ヤード程度でハザードも少ないホールでバーディをとった時に、半分謙遜しながら仲間に対しそういいます。
「このホールはサービスホールかもね、バーディが当然さ」みたいなニュアンスです。
もうひとつはゴルフコースを揶揄する意味があり、(距離やデザインに不満があって)「ちょっとミッキーマウス(スラングで子供だまし)なコースじゃないかい」という悪口になります。
スコアが悪かった時は仲間から「エクスキューズ(言い訳)だね」と誤解されますから、決して言わないほうがいいでしょう。
「チリ・ディップ」
ダフりは和製英語といわれますが、ダフという言葉自体は古くから英国にありました。
スコットランド語に由来する"Duff“からの派生だと考えられます。
19世紀の文書には頻繁に出てくる”Duffer(無能な、不器用な人物)”というスラングから転じて、ダッファーは下手なゴルファーを指すようになりました。
当時から”Duff”はボールを打つ前に地面を打ってしまうことを意味するようになり、日本では「ダフった」というように使っています。
しかし、海外ではほとんど”Duff”という単語を耳にすることはありません。
ほかには自己紹介の時謙遜しつつ、「私はダッファーです」などとも使います。
ここに登場したチリ・ディップ(Chili dip)はダフりの仲間で、クラブで地面を削ってしまうことを”Dipping(すくいとる)”という表現から来ています。
皆さんもポテト・チップスにさまざまなソースをつけて召し上がるでしょう。
あの辛いチリ・ソースをつける仕草にそっくりだからですね。
「ジェイル行き!」
さぁボールを林深く打ち込んでしまいました。
ここは深刻な表情にならず、すかさず「ジェイル!?」とユーモアで返しましょう。
たくさんの木々を鉄格子に見立て、牢屋に打ち込んじゃったよ~という意味です。
ジェイル(Jail)は監獄、牢屋あるいは拘置所のことですね。
50年以上前にヒットしたエルビス・プレスリーの「監獄ロック」は、原題が”Jail house Rock”です。
ここに入れたら脱走、脱出困難だというシャレです。
以前仕事でご一緒したアメリカ人とラウンドした時、彼は”In the log cabin(ログハウスの意)”などとユーモラスに叫んでいました。
オシャレにそしてタイムリーに使うと、一言で空気が一気に和むものです。
「ゴー・トゥー・スクールだね」
先に打つ人のパッティングラインと、自分のラインがほとんど重なっている時などは「ゴー・トゥー・スクール(Go to school)」などといいます。
その人のラインを学ばなきゃね、みたいなユニークな表現になります。
ついでに「外国人が左に曲がったね」などと表現するときは”Bend to the left”などとBendを多用します。
またグリーンが重い(遅い)ときの表現は”Slow”で十分ですが、速いときはFastのほかに”Slippery(滑りやすい)”もよくでてきます。
「スカルとスカフ」
スカル(Skull)は日本語的でいうトップです。
「その2」で登場したベリー(Belly=お腹)とほぼ同じ意味ですが、もうすこしボールの赤道より上をクラブのリーディングエッジ部分で打つとスカルを使います。
古い文献に"Scull"と書かれたものがありましたので、”Skull"も”Scull”も両方正しいのかもしれません。
スカフは”Skull”とはちょうど逆の意味です。
いわゆるダフりのことで、ボールを叩く前に地面を打ってしまうことで、距離的にショートした時は「スカッフ(Scuff)だったかな?」などと呟きます。
プロゴルファーの業界用語(?)に、「チャックリ」という言葉があります。
アプローチ限定のダフリの意味で、打ったボールが1~2ヤードしか飛ばない全くの当たり損ねの時に使います。
PGAのトーナメント中継をバイリンガルで聞いていると、そんなミスショットに対し「チャンキー(Chuncky)!」といいます。
これは想像ですが、このチャンキーとかチョッキ―の比喩語が、日本人の誰かが聞いて「そういう時はチャックリっていうのかな?」となって伝わり定着したのかもしれません。
よく似た言葉で”chubby(チャビー)”があり、こちらもほぼほぼ似たようなダフリショットでスピンが掛からないときに使う用語です。
「スノーマン」
大叩きした誰かに「今何打でしたか?」と聞かれたとき、「スノーマンになっちゃったよ~」と答えただけで周りがとても柔らかい雰囲気になります。
スノーマン(Snow-man)は文字通り雪だるまのことで、〇がふたつ重なった形ですね。
パーの数に関係なく、スコアが「8」の時はこのワードが使えます。
パー4ならダブル・バー(規定打数の倍)と同じ意味で、2019年のルール大改正では「ギブアップ」と宣言すればそれ以上のスコアの記録はされなくなります。
パーの数より3打多いときはトリプルボギーといいますが、4打多いときは”クワドラプル・ボギー”ともいいます。
【決して英語はうまくならないゴルフスラング・用語】その3のまとめ
アメリカ人の多くはスラングが大好きで彼らは嬉々として好んで使います。
それだけボキャブラリーが豊富なんだといつも感心します。
彼らの日常のTPOはその時を精一杯楽しむという、生まれながら身についた習慣があります。
その点で日本人とは歴史も人生観もちょっと違うようです。
でも最近の若者たちは限りなく欧米人の感覚に近づいています。
特にゴルフとなると「楽しまないとソンでしょ」の気持ちが充実してきたようです。
テニスや卓球で”デュース(Deuce)”は2打先取という意味から、パー3を2打で上がったときにバーディではなく”デュース”なども使われます。
時にはアメリカンなオシャレな言い方も楽しくなります。
野球選手が空振り三振すると「扇風機~」などと冷やかされたりしますが、ゴルフも空振りのスラングはファン”Fan”です。
やってしまったら即座にFanというとストレスが少なくなります。
FanはFun(遊びとか楽しい)に通じているから、よけいそう感じるのですね。