「ミラクルは起こるものではなく起こすものだ」
という名言があります。
ゴルフに限らずさまざまなスポーツには、時として人智の及ばない”神ってる”力が働いているんじゃないかと思って息が止まりそうなときがありますよね。
単純にスーパープレイで片づけられるレベルではなく、背筋が凍りそうなミラクルショットに遭遇したことがありますか?
PGAツアーにはグリーンをこぼれて10秒近く止まってから転がりだしてホールインワンしたファジー・ゼラーや、ジャスティン・トーマスのカップ際で12秒止まってからカップインというミラクルもありました。
今回は忘れ難いミラクルショットと、危険極まりないミラクルショット(?)を3つご紹介しましょう。
ミラクルショットのキング【セベ・バレステロス】
折れた3番アイアン1本を兄からもらい、近くの砂浜で毎日打って遊んでいた貧困家庭の少年はついにゴルフ殿堂入りを果たしました。
彼の名前はセベ・バレステロスです。
ミラクルショットといえば彼が真っ先に登場するのが”筋”でしょう。彼が活躍した時代を知る人は、数えきれないほどのミラクルが目に焼き付いています。
今活躍中のフィル・ミケルソン+バッバ・ワトソン=セベといっても言い過ぎにならないくらい、多彩なボールコントロールで彼の右に出る選手はいません。
その原因のすべては、彼の信条である「ピンデッド主義」と飛んで曲がる彼のボールでした。
ボールの状況がどうこうなど彼の頭にはありません。見えているのは遠くにあるカップだけ、超攻撃型の特攻隊長でした。
舗装道路からミラクルショット!
「パーキングショット」の話は、ゴルフ界のミラクルショットの話題になると必ず登場します。
時は1979年の全英オープン、場所はロイヤルリザム&セントアンズの最終日16番ホールでひとつの伝説となりました。
ティーグラウンド、9割のプロはアイアンでレイアップしていきました。セベの辞書には「刻む」とか「迷う」という文字はありませんから当然ドライバーを手にします。
しかしボールは風に乗って右へ右へ… 特設駐車場に止めてあったギャラリーのクルマの下に潜り込みました。
救済処置でクルマは移動されましたが、固い舗装道路上からあるがままに打つ義務があります。
セベは何事もなかったような涼しい顔をして打ちます。そのショットは高い林を越え、なんとこれがベタピン!
まさにミラクル!軽々バーディ奪取して最終的に3打差の優勝をしてしまったのです。セベのゴルフの概念を超える想像力の勝利は枚挙にいとまがありません。
ミラクルショットはなぜ出るのか?
天才の存在感とは、常識と非常識+不条理と理不尽を肌身離さず持ち続けていることです。
タイガー・ウッズのかつてのコーチを務めたブッチ・ハーモンは、ゴルフ記者との雑談の中でこんなことを言ったそうです。
「タイガーのミラクルショットはナゼ何度も出るのかって?それは簡単なことだよ。彼は想像もしないシチュエーションからのショットをいつも練習しているからさ」
なるほど、天才が練習してしまえばあり得ないショットもミラクルではなくなるという意味です。
それにしてもぼくらギャラリーは、彼ら選ばれし一握りの天才たちのミラクルに目を丸くします。
マスターズ16番ホールの奇跡
皆さんのご記憶に強く残っているタイガーのミラクルショットといえば、いまなお語り継がれているこのショットでしょう。
2005年のマスターズトーナメント、最終日・最終盤のことでした。あの美しい16番ホールで、信じられないミラクルショットが生まれたのです。
そう、すべてのテレビの視聴者も居合わせたパトロンたちも、目の前の現実は映画のような脚本に基づいているのだと信じたかもしれません。
タイガーのティーショットはアドレナリンでも出過ぎたのか、大きくグリーンをオーバーします。中継のアナウンサーの言う通りなら、30フィート(約9m)のアプローチが残ったことになります。
よほどの独創性を発揮しない限り、その9mは90ヤードに匹敵します。
ピンポイントに落とされたボールは?
タイガーはカップより3mも左に打ち出しました。
途中から斜面を転がって右へ右へと、小動物のようにカップに近づいたボールは一瞬淵に止まりかけてナイキのロゴマークを見せた後、コロンと落ちました。
距離よりも、はるかに複雑なグリーンのアンジュレーションを読み切ることだけでもありえないことなのに、見事カップインさせてしまとは!
一瞬世界が凍り付き、見ていた人は鳥肌が立ったでしょう。
最後はタイガーがクリス・ディマルコとのプレーオフを制しグリーンジャケットを手にします。
マスターズの優勝は当時の記録だったジャック・ニクラウス(6回)に次ぎ、アーノルド・パーマーに並ぶ4度目の優勝を果たしたわけです。
ベナン共和国に災難をもたらしたミラクルショット
最後になりましたが、みなさんにはぜひマネ(?)をしていただきたくないミラクルショットの話題です。
亡くなったゴルフ愛好家、夏坂健さんの「ゴルフの処方箋」から取材しました。
みなさんはベナン共和国をご存知ですか?
この国出身でビートたけしさんのオフィスに所属していたゾマホン・ルフィンさんは、たけしさんの援助を受け日本語学校を作っています。
人工1,000万人、面積は本州の半分くらい、位置は赤道付近でナイジェリアの西隣に位置しています。
1987年のこと、マシュー・ボイヤーという男性がいました。
コットン貿易などのビジネスをして、南アフリカから新天地ベナンの首都ポルトノボに居を構えます。真面目に仕事をしたおかげで大きな富を手にし、何不自由ない生活を送っていました。
ゴルフがやりたいという一心で
ボイヤーさんは生き甲斐を持ちながらも、大きな不満がひとつだけありました。それは国中のどこを探してもゴルフ場がないことでした。
ゴルフ大好き人間のボイヤーさんは、来る日も来る日も「ゴルフがしたい!」という気持ちを募らせていました。
ある日、見かねた部下がこんなことを耳打ちします。
「いい場所がありますよ、空軍基地の滑走路に並行する不用の草原なら、草も短く刈ってあって好きなだけ打てますよ」
すぐに出かけたボイヤーさん、檻から放たれたライオンのように「ウオォ~~」とか一声叫び、間髪を置かずに車からクラブを取り出すと、いきなりドライバーでボールをかっ飛ばします。
何発も打ち、拾ってきてはまた打つの繰り返し。
たった1発のスライスボールが導いた事件とは
不幸が起きたのはその直後でした。
ボイヤーさんのボールは途方もない大スライス!
ボールは不時着エリアを越えて空を飛ぶ中型の鳥の群れを直撃しました。一羽に当たったようで、羽を散らしながら落下するのが見えました。
地上ではベナン共和国が誇る新型ミラージュ戦闘機(写真は参考)1機が、訓練飛行のため離陸し始めて地面から浮いたタイミングでした。
なんと魔の悪いことに、パイロットが風防窓を閉じようとしたとき中にその鳥が飛び込みました。
コックピット内は大混乱!
狭い中で鳥が暴れ回りパイロットはパニック、操縦不能となった機の前方には新型ミラージュ戦闘機4機が整然と並んでいました。
パイロットのヘッドフォンに届く声も絶叫あるのみ、数秒後には火柱と大音響でそこは地獄になりました。
ボイヤーさんは保安法違反で起訴されましたが、なんとスライスを打ったことは罪ではないとの解釈で損害賠償だけが残りました。
その後どうなったんでしょうかね。
全額完済までに全収入をつぎ込んでも、14万5720年ほどかかるそうです。
アンビリーバブルなミラクルショットのまとめ
世界には予想がつかないミラクルショットがあります。そしてこれからも予想がつかないミラクルショットが起こります。
先ほど話題になったオーガスタの16番で、マーティン・カイマーが水切りショットでありながらホールインワンを果たしたミラクルなどもありましたね。
実は日本でもあるテレビの特番で、横峯さくらプロが水切りショットのホールインワンを達成しています。
事実は小説より奇なり、ゴルフでは想定外のことがよく起こります。
そういえば先日、ゴルフデビューしたての女性とご一緒する機会がありました。ちょっと疲れが見え始めた後半3ホール目にそれは起きました。
ピンが見えない大砲グリーンで残り70ヤードほど(その女性はどのクラブを使っても70ヤードぐらいの飛距離です)でしたが、放たれたショットは地を這うようなトップで花道を駆け上がりました。
かなり強めに転がっていったのでグリーンをオーバーしているだろうと奥のラフを探すも見当たりません。ロストボール認定して打ち直し、そこから5打かけてカップインしたときに事件は起こりました。
そうです、彼女のボールがカップに2つあったのです。
こんなことがあるからゴルフは辞められません(笑