「40秒以内にショットしないと1打の罰」
こんなルールが定着へ一歩前進しました。
バスケットボールやビリヤードで導入されているシステムに「ショットクロック」というものがあります。
バスケットボールの国際ルールでは24秒以内にショット、ビリヤードのプレミアスヌーカールールでは25秒以内にショットをしないとペナルティを受けます。
日本でも囲碁などでプレーヤーが考える時間を制限し、よりスピーディな試合展開を目指すために同様の措置が取られています。
本サイトでもプレーファーストを順守すべき理由を述べてきましたが、とうとうゴルフもショット毎の時間制限が設けられる時代となってきました。
2018年開催の「オーストリアン・オープンゴルフ」と「ショットクロック・マスターズ」で採用予定で、
- オナーの選手は50秒以内にショット
- それ以外は40秒以内にショット
- 1ラウンドに2回のタイムアウトあり
といったルールで試合を行う予定です。
そして制限時間を守れなかった選手には1打罰という厳しいペナルティを課すようで、この試合以降ゴルフというスポーツの概念が変わってきそうな予感さえします。
なぜゴルフにショットクロックが必要なのか
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でも書いた通り、いまゴルフ界は大改革の真っ只中です。
ゴルフは「距離・風向き・風速・ライコンディション・傾斜」などのあらゆることを判断して、ショットを行う必要があります。
プロ選手ともなれば「1打のミスが命取り」となり、それこそ「この1打で1千万円変わる」なんてショットもあるでしょう。
したがって慎重になるプレーヤーも少なくありません。
しかしゴルフ人口は以前よりやや持ち直したものの、若者の裾野が思ったより広がっていません。
その理由のひとつに「ゴルフは時間がかかるスポーツ」であることが挙げられます。
野球であれば3時間、サッカーなら90分、バスケットボールなら40分で試合を終える(休憩時間を除く)ことができますが、ゴルフは早い人でも約4時間。
スロープレーヤーが数組いると5時間を超えることなんてザラです。
こうなると1日の大半がゴルフに取られてしまうため、忙しい現代人とマッチしなくなってきています。
大のゴルフ好きであれば1日丸々ゴルフ漬けでも楽しめますが、問題なのがライトプレーヤーが増えないこと。
手軽に遊びたいユーザー層の分母が増えてこないことには明るいゴルフの未来はやってこないでしょう。
そこでR&AやUSPGAが前述のゴルフ大改革に着手したという訳です。
今回のショットクロック導入も改革のひとつです。
ゴルフコースは列車で移動するようなもの
ゴルフコースは一方通行道路の上で、多くの方が列をなして前進する場所です。
渋滞が起こるときは、必ず進行の遅い車があります。
つまり、一人のために多くの方が巻き添えになる図式なんですね。
高速道路にもゴルフと同じようにルールがあります。
全車が法定速度なら問題は起きませんが、1台だけが50km以下だったら渋滞の原因になります。
高速道路には追い越しという手段がありますが、ゴルフコースは鉄道のレースの上を走るのと同じ、追い越しは簡単ではないし時間短縮にならない場合もあります。
もう2時間以上かけるスロープレーの時代じゃない
いまのゴルフ界は、プレーファーストとルールの簡素化の2大目標を掲げています。
極端に例えると、2時間以内でプレーする習慣がない方を”排除”しても、たった4時間でゴルフが楽しめるなら始めたいという方の数のほうがはるかに凌駕しているからです。
この2大看板がゴルフファンの底辺拡大になることは間違いありません。
その大きな潮流はR&AやUSGAに対して素早く呼応しました。
2017年10月23日、欧州ツアーの最高経営責任者、キース・ペレー氏は重大発表を行いました。
2018年にオーストリアで開催する男子ゴルフの欧州ツアー「オーストリアン・オープンゴルフ」と、ワンアジアツアー共催となる来年の全豪オープン(ショットクロックマスターズ2018)の全ホールで「ショットクロ
ック」が導入され、時間制限をオーバーした選手には罰打が科されることを明らかにしたのです。
これでスロープレーをなくそうとする具体的なルール化が始まりました。
すでにショットクロックを使った試合があった
実はすでに実験を兼ねた試合は2016年5月に行われていたのです。
世界ランキングに加算されなかったため、日本ではほとんどニュースにされませんでした。
さきほどショットクロックのルールを説明しましたが、1度目はイエローカード(すべてのホールにレフェリーがつく)、2回目以降は1打ペナルティです。
関係者は、この新システムによって大会が45分間短縮されたと報告しました。
これはスロープレー対策とラウンドの時間短縮という課題にたいし、積極的に改革を受け入れている証しを世に見せつけることになりました。
サッカーのワールドカップ方式をとり入れた人気の大会
2016年5月、ひとホールだけ試験的にショットクロックを導入して試合が行われました。
これは「ゴルフシックスズ」と呼ばれる2日間の新規イベントでした。
実験大会だっただけにとにかく斬新なアイデア満載で、今後のゴルフ界に大きなインパクトを残しました。
形式は国別対抗戦で、出場したのは各チーム2人ずつの16カ国32人でした。
ちょっと変わっているのは徹底的にサッカーを意識していたことです。
サッカーのワールドカップと同じ4組のグループリーグで上位2チームが決勝トーナメントに行くフォーマットにしたのは、若者にウケる(欧州だから?)だろうという願いからでしょう。
各試合は6ホールのマッチプレー(2ボール=グリーンサム方式)で争われました。
1ホール獲ると1ポイント、勝敗が決した後も全6ホールまで行われたことです。
そうするとサッカーに似た3-1とか2-0のようなスコアとなります。
勝ち点同数で複数チームが並んだ場合に、このポイントがサッカーの得失点差と同じ扱いで決勝トーナメント進出チームを決定しました。
カウントダウンなんて!ゴルフのイメージが変わります
新システムは盛り上がりたくさんの人が入りましたが、なんといってもギャラリーが集中したのは4番ホールです。
そこには写真のようにデッカイショットクロックがあったからです。
まるでオリンピックの陸上競技に使われるものに似ていませんか?
とりあえず実験だったので、ショットクロックが置かれたのはこのホールだけでした。
ショットクロックで計測されるのは全ショットです。
ティショットから、セカンドショット、アプローチからパッティングまで選手を追うように移動して行きます。
ビックリしたのはタイマーが残り10秒になるとギャラリーが大きな声でカウントダウンをし始めたことです。
これはマナー違反どころか、大会関係者から奨励されていたんです。
見ていてライダーカップのバッバ・ワトソンのティーショットを思い出しました。
実験したからこそ得られたこと~次回への期待
実験の結果、課題もでました。
最終日に優勝が懸かっているショットなどは40~50秒で打たなければペナルティというのはちょっと負担が厳しいこともあります。
これは予選ラウンドのみに適用などという意見はありました。
また、カウントはどの動作から始めるか、仕切り直しをしたらどうするかなどなの問題もあります。
今後は厳密なルールに設定されるでしょう。
前述の2018年「オーストリア・ゴルフオープン」では全ホールでの使用が予定されているため、ゴルファーの反応もギャラリーの意見も注目されています。
ショットクロック導入のまとめ
ゴルフは高いお金を払っているんだから、自分のペースでやる権利があるというのはいささか間違っています。
同じ思いで後に続く人たちのことも考えなければいけません。
もし一度でもキャディさんやスタッフさんに「お急ぎください」といわれたことがある方は、スロープレー常習者のいる組にいたということです。
最大の問題は、自分がスロープレーだということを意識していないことでしょうか。
先ほど解説した実験的なゴルフシックスズの試合は、スピードアップとエンターテインメントに満ちて、プレーヤーとギャラリーが過去一番のゴルフをエンジョイしたようです。
1番ホールは花火と音楽、ド派手なアナウンサーによる選手紹介、ギャラリーたちは感情のままに声を張り上げました。
ゴルフ大会のイメージが変わりますね。
ショットクロックは日本の試合ですぐにでも取り込める環境はあります。
普段は静けさに包まれたゴルフ場も、ギャラリーの大きな喝采に包まれる「観戦者参加型」の試合があってもいいですね。