「中部銀次郎」という名前をご存じでしょうか?
日本アマチュア選手権で優勝トロフィーを6回も胸に抱いた天才ゴルファーです。
初心者の方やまだ30代の方は、ほとんど名前を聞いたことさえないかもしれません。
それは彼がついにプロにならなかったこと、2001年にたった59年の生涯を惜しまれつつ閉じてしまったからでしょう。
すこしゴルフのキャリアがある方なら一度や二度は耳にしたことがある名プレーヤーです。
中部銀次郎さんは30代のころ、のちにプロ入りした中嶋常幸さん、倉本昌弘さん、湯原信光さんら、飛ぶ鳥を落とす勢いだった若手をことごとく倒してきました。
青木功さんとは良きライバル関係で深い親交がありましたが、中部銀次郎さんは生涯プロになることはありませんでした。
今回は中部銀次郎さんの”ゴルフ哲学”のご紹介です。
「哲学」というと堅苦しくなるので、もっと皆さんがプレー中に、あるいは練習中に感じることをいくつか例にとりながら解説します。
ゴルフの根底にあるものを中部銀次郎が説く
ひと時代の前の方であっても、ジャンルが違う方であっても、その世界のひとつの頂(いただき)を極めた経験者は高邁なスピリットを持っています。
その考えは時代がいかに変わろうと、だれもが共感するひとつの真髄として常に息づいています。
ゴルフのスコアを突き詰めるとメンタルと知識だという考え方があります。
そんなアマの頂点を達成した中部銀次郎さんの思考にふれ、あなたが納得して引き出しにしまっておくことで、かならずこれからのスコア向上に役立ちます。
中部銀次郎さんはゴルフの基本的な部分でベン・ホーガンによく似たところと、ボビー・ジョーンズの思考スキルと共通するところがあります。
大事なショットと大事ではないショットはあるのか?
ここからは「哲学」というより、ゴルフの真髄でありゴルフの正しい考え方です。
100%の方とは言いませんが、ほとんどの方が技術の向上の過程で悩み思うことが登場します。
さて初心者を卒業し「100」という数字が近づくにしたがって、短いパットを外したことで受けるショックが大きくなったりしていませんか?
優しいシュチュエーションでのアプローチなどでミスすると、そのことで尾を引いたりしていませんか?
ゴルフのテレビ中継でもアナウンサーが「このパットは大事ですね~」などと力を込めていいます。
確かに勝ち負けを決めるパッティングがないわけではありません。
中部銀次郎さんはこんな言葉を遺しています。
『大事ではない1打などありえない』
すべてのストロークは等価であるという教え
中部銀次郎さんにとっては、競技会の最初の1打も優勝を決めた最後のパットもすべてが大事な1打でした。
『すべてのストロークは等価である』
ワンストロークはワンストローク、ゴルフは1打の価値に変わりはない。
そのように1打に格差をつける気持ちが、自分を追い込みミスを起こす元になるということですね。
すべてのストロークに対し、常に同じ気持ちでボールに向かう、この抑揚を持たない精神を常のものとすることがゴルフを上達させます。
メンタルを整えることで、バーディパットのプレッシャーも平坦なものに変わり、入る確率が必ず上がってきます。
ゴルフは一喜一憂しながらプレーするより、淡々と平常心を保つことが好結果に結びつくことが多いという教えはボビー・ジョーンズも同じです。
ナイスショットはマグレではない~ただし確率を知るべし
あなたが打った「ナイスショット」があなたのレベルなのだという考え方を持っていますか?
中部銀次郎さんはこういいました。
「いいショット、素晴らしいショット、これはすでにそれだけのショットが打てる技術を体得していることを証明しているのだ」
ぜひ自信を持ってくださいね。
多くの100切り前のゴルファーは、良いショットの後ですぐにミスショットが出る。
ナイスショットが何回か続いた後で突然乱れる、こういう経験は誰にでもあります。
誰にでもあることですが、問題は考え方の違いです。
きっと自分の技術レベルが低いせい(下手だから)だと。
このようなミスショットは、90%メンタルから生まれています。
自分自身が内なる敵になってメンタルに働きかける
ナイスショットが打てるということは、それだけの技術はすでに会得しているのです。
マグレというのではなく、単に確率が低いだけです。
実際に自分の力で打っているのだから、自分のものに間違いはありません。
だだし、自分のショットのナイスとミスの確率がどれほどのものかを知ることはゴルフを続ける上で最重要項目です。
ナイスショットの後のミスはなんでだろうと考えてください。
良いショットは、体の良いバランスがあったからスムースなスイングができたのです。
その次、あるいはもっと後に生じたミスは、明らかに体に残っていたリズムが崩れてしまった結果にほかなりません。
リズムを崩したことによるミスの大半は心の中から生じるものです。
パー4などで2打目がグリーンの花道の良いところまで運べたとしましょう。
ここでピンにピッタリくっつけようという気持ちが強くなるほど、自分が自分を呪縛することとなります。
自分の力量を超えたものを望む気持ちが、無意識のうちに体の自由さを奪い取っている「リキミ」だということに気づきません。
このように、すでに打つ前にミスの火種が生まれていることを知るだけでゴルフが変わってきます。
上達のためには「敵(コース)を知り、己(自分自身)を知る」ことが大事
このように、上達を望むなら自分のショットの確率を知るべきなのです。
初心者から110前後に上達した人に多いミスは、すこしギャンブルショットを試みすぎるということがあります。
ゴルフのショットで成功するか失敗するかの確率を無視したショットはすでに賭けの分野になります。
ゴルフの真髄は「無謀なことに挑戦することではない」ということを知るうえで、中部銀次郎さんはこんなエピソードを語っています。
あるトーナメントで、ベン・ホーガンとサム・スニードの二人が並び、ふたりのプレーオフになったことがありました。
プレーオフホールはグリーンの手前に大きな川が流れている18番パー5でした。
通常なら2オンが可能なホールですが、ベン・ホーガンはセカンドショットをクリーク手前に刻みました。
ライが悪く、クリークに入る確率が半分以上だと判断したからです。
きっとプレーオフでなければまた違った判断もあったことでしょう。
まだゴルフの難しさを知らない初心者も学べばうまくなる
このエピソードはどちらが勝ったとか負けたかがあまり問題になりません。
あれほどの名手でも刻むべきは刻む、石橋を叩いて渡るのがゴルフだという教えです。
まだゴルフを熟知していない初心者なら仕方ないことですが、2オン可能な距離ならシチュエーションがどうあれ、届くクラブを持つのが決まりだと思い込んでいます。
あるいはラフからバンカー越えのショットを試みるとき、ボールを上げようとしてフェースを水平に近くなるまで開きトライします。
フェースが開いた分、リーディングエッジが高くなることまで想定していないから、結果的にトップして大叩きをしてしまうことになります。
こうした冒険をするのはハンデの多い人の傾向で、ハンデが少なくなるほど確率の低いことは行いません。
中部銀次郎さんのエピソードは、単に臆病なゴルフのススメではなく、自分のレベルとショットの確率、そのことを説明したかったのです。
置かれた状況と自分の実力の冷静な判断
先ほどのマグレという本来の意味は、このような実力を度外視した無謀なショットがたまたま成功した時のことが本来の意味です。
初心者時代から上達する過程で大事なことは、先ほどから説明している自分のショットの確率です。
ゴルフに対する考え方や状況判断は、経験を積めば誰でも身につきます。
ならば、そのことをはじめから知っておいたほうが早くうまくなります。
ミスショットをした初心者ゴルファーが、「たまたま打ち間違えしただけで、今度は必ずうまく打てる」という認識なら、次回も繰り返す可能性があります。
「自分の実力からいうとムリなショットをしてしまった。次回からは自制して慎重にいこう」
と考えたなら、そこでひとつの学習をしたことになります。
ゴルフをプレーする方の気質にもよりますが、大きく二通りに分かれます。
- 数%の成功確率でもギャンブルショットする
- 90%の自信がなかったら無理せず次打に掛ける
もしこの二人の初心者がいたら、上達のペースは明確に分かれるでしょう。
たしかに一か八かのギャンブルもゴルフの楽しさではありますが、それは上達してからの楽しみにとっておきましょう。
中部銀次郎、ゴルフの哲学のまとめ
中部銀次郎さんは山口県下関市で1942年に生まれました。
地元で大洋漁業(今のマルハニチロ=現在のDeNAの前身の大洋ホエールズ球団を持っていた)の副社長の3男でした。
あまりの虚弱体質だったので、父親がゴルフを教えたところメキメキと腕が上がり、数多くの試合で勝ち続けました。
1967年にはプロのトーナメント「西日本オープン」で優勝し、新聞に「プロより強いアマチュア」と書かれました。
晩年は常陸太田市の久慈大洋ゴルフクラブ(現在はスパ&ゴルフリゾート久慈)のコース設計に携わったりしました。
ボビー・ジョーンズと同じように生涯アマチュアを貫き、こよなくゴルフを愛し続けた人です。