ゴルフってひと言で言いきれない、本当に面白いスポーツです。
まず体力があるからゴルフがうまい…とは限らない。
おまけに人の力ではどうすることもできない「運」が大きくスコアに影響を及ぼすスポーツはほかにあまりありません。
それがあるからプロのトーナメントも最後の最後まで何が起こるかわからない、ドキドキ・ハラハラのシーンが続きます。
最終ホールで3打差を逆転した試合なんていっぱいあります。
誰も予測していなかった事件が発生することなど珍しくありません。
つい先日終わったばかりの女子プロゴルフツアーで、まったく想定外の「事件」がありました。
1打の差を争うなかで、なぜかベテランキャディさんがその事件を起こしたのです。
トーナメントの最終日は緊張の連続、キャディさんもパニクっていたんでしょうか?
今回はそんなプロの事件簿を題材に、アマチュアの方が参考にしてゴルフの興味を深めたり、ルールの知識や対処法についてのコラムです。
吉田弓美子優勝の影には予想外の事件があった!
一体だれがこんな展開になると予想したのでしょうか。勝利の女神は本当にいたずら好きです。
その事件とは、あろうことか優勝争いのデッドヒートの真っ最中に、キャディさんがうっかりプロが置いたボールマークをピックアップしてしまったのです!
時は2017年10月8日、場所は富士山を望む景勝地にある東名カントリークラブ(静岡県裾野市、6,589ヤード・パー72)のことです。
ここは日本でも有数の高速グリーンで有名です。
好天の最終日、女子プロゴルフトーナメントの「スタンレーレディス」は二転三転、ギャラリーやゴルフファンにとってはとても面白い展開になりました。
筆者も好きなコースで、ここでは数多くプレーしています。
下りの3mを5mオーバさせてしまったことなど何度もあります。
経験した方ならわかりますが、これほどのスピードで一日プレーしていると、確実に頭の中が混乱してきます。
ましてプロの試合となるとハンパではありません。
一瞬頭の中が空白になったキャディさんが!
そして事件は起こりました。
吉田弓美子プロは12番でバーディを奪取!
この時点で吉田は8アンダーとし、トップの藤本麻子とイ・ミニョンに1打差と迫りました。
迎えた13番、昨シーズンから吉田のバッグを担ぐ川口大二キャディさんがビッグミスをやらかしたのです。
13番(パー4)で5mのバーディチャンスにつけた吉田プロ、これを沈めればトップタイというシチュエーションです。
吉田プロがライン読みをしているとき、キャディの川口さんがなぜかボールマークをフッと拾い上げたのです。
吉田プロは一瞬何が起こったのか理解できなかったそうです。
システム化されていたキャディとプレーヤーのルーティン
このコンビもそこそこの試合回数を消化しています。
ほかのプロがしているようにお互いのシステムというか、グリーン上の通常のルーティンは確立されています。
①プロがボールを(ボールの後ろ=ピンの反対側)マークする。
②ボールを拾ってキャディに渡す。
③プロはピンの逆側に行き、ライン読みをする。
④キャディがよく砂などをふき取ったボールをマークに置く。
⑤プロがボール位置に戻ってパッティングを行う。
幾度となく繰り返したこのシステムが、この時に限り一瞬乱れてしまいました。
キャディを襲った「空白」の間
事件が起きたのはは③~④でした。
いつものようにプロがボールをマークしたまでは良かったのです。
全く意味が分からないのは、キャディがカップと逆側(カップからマーク→ボールの順)にボールを置き、マークを拾ってしまったのです。
つまり、ボールを置いた場所は「ボール1個ほどピンから遠い誤所」だったのです。
川口さんはあとで「なぜそうしたのかわかりません」と話しています。
ゴルフにはそうした”完全に空白になる呪縛の時”があるものです。
ピンと張りつめた空気の連続で魔がさしたのかもしれません。
痛恨の失態に気づいた川口キャディは顔面蒼白、生きた心地もしなかったでしょうね。
川口キャディはすぐに対応しました。競技委員を呼び事の次第を説明します。
その結果、規則(後述)通り1打罰を科せられ、ボールを正しい位置にリプレースしました。
バーディパットは自動的にパーパットとなり、それも決まらずボギーとなってしまいました。
メンタルの強い人・弱い人でゴルフは変わる
吉田弓美子プロのメンタルの強さは、ここから発揮されました。
彼女はポキッと折れるどころか、「空を見たり森を見て心を落ち着かせた」ことを試合後に明かしました。
メンタル的に弱い人なら、ここでプッツリ気持ちが切れ、そこから崩れてボギーの山となるケースは山ほどあります。
しかし彼女はそんなヤワではなかったんですね。
トラブルが発生しながらも、耐えて耐えてパーを重ねて18番ホールまできました。
そして首位につけていた藤本麻子は17番と18番で痛恨のボギー!
逆に吉田は17番でバーディをとり、ミニョンと吉田プロを含めた3人が8アンダーでトップタイに並ぶ展開になっていました。
栄冠はつねに困難を乗り越えた末に待っているもの
吉田プロの最終ホールは4mのバーディチャンス、彼女は入れれば優勝というところまで頑張ってきたのです。
先に打ったミニョンはバーディパットを外していたからです。
「真横に曲がるフックライン、難しかったので手が震えた」といいつつも、「外したってプレーオフで勝てばいいんだ」と考えていたそうです。
気持ちの芯が太いですね。
吉田は30歳になったばかりですがトーナメントではベテラン、その長い経験が気持ちをポジティブにさせているのでしょう。
吉田は落ち着いてそのパットを沈め、今期4月のフジサンケイレディース・クラシック以来の2勝目を飾りました。
これで彼女はキャリア通算7勝目となったわけです。
ボールの拾い上げとマークに関するルール
ゴルフ規則20-1には「球の拾い上げとマーク」の規則があります。
①ボールはプレーヤーだけではなく、パートナー(マッチプレーなどの)と本人が認めた人(主にキャディ)なら拾い上げができます。
たとえばバンカーから打った後、レーキで均している時に同伴者が親切に「マークしておくよ」と声をかけ、お願いしますというケースが「本人が認めた人」に該当します。
②その拾い上げに関しての罰則は、すべてプレーヤーが責任を負います。
もしお願いした場合にその方が誤った拾い上げをしてしまったら、罰則は双方ではなく「プレーヤー」が対象になります。
③球を拾い上げる前にその球の位置をマークしなければならない。
マークしなかったときは1打の罰で、球はリプレース(元の位置に置くこと)されなければならない。
④球を拾い上げたり球の位置をマークしているときに球やボールマーカーが偶然に動かされた場合、その球やボールマーカーはリプレースされなければならない。
その時、球やボールマーカーの動いた原因が球の位置をマークしたり、球を拾い上げる行為そのものに直接の関係(指で誤って動かしたなど)があればノーペナルティ、それ以外のときは1打のペナルティがある。
あなたはボールマークに関する正しい知識を持っていますか?
ボールのマークの仕方も規則があるので、知っておく必要があります。
マーカーの位置はボールの後方(カップと逆)にすべきですが、ケース次第では横でも前でも違反にはなりません(ルール上はOK)。
マーカーも市販のカッコいいものに限りません。極端な話、近くの葉っぱでも許されます。
距離計測器でもグローブでも風で飛んできた小枝でも良し、ティーペグを芝生に刺してもルール上の問題はありません。
しかし、そのマーカーがほかの方に違和感を与えるなら遠慮すべきですし、指摘されたら取りかえる義務があります。
やはり大きさも厚さも常識の範囲で、コイン状のものがベストです。
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今回の事件は、マーカーの位置が「置くべき」本来の場所でない状態で、かつボールマーカーを動かしたので1打の罰となったわけです。
吉田弓美子プロのケースまとめ
いかがでしたか?
実際に起こった事件からルールを学ぶのは、記憶という点で非常に効果的です。
またこの事件から、メンタルをキープすることの難しさと重要性をを学ぶことができます。
空や森を見て気分をスローダウンさせるなどは模範とすべきですね。
吉田プロは優勝会見でこんなお茶目を語っていました。
18番の入れたら優勝というバーディパットは、世界で一番キャディさんがドキドキしていただろうなと想像していたといい、
「もし入ったらキャディがどんなリアクションをするかなと思っていました」と爆笑コメントを言い放ちました。
結構余裕だったんですね。
そして最後のパットを確認して安堵感に包まれ、涙が止まらなかった川口さんのことに触れ、
「キャディーのミスは自分のミス。これでチャラにはなりませんけどね」といって笑顔でした。